ホフマン物語(二期会): 読売新聞

ホフマン物語(二期会) 木下美穂子が救世主

空気がなかなか動きださないのは、初日のせいもあろう。だが理由はそれだけだったろうか。二期会創立60周年記念公演、オッフェンバック「ホフマン物語」(シューダンス版)である。

芸術家ホフマンが恋しては敗れる3人の女たち。うち一人はオランピアなる機械仕掛けの人形だ。超高音を輝かしく決めつつ、カクカクと動いて見せた安井陽子は立派だが、なぜか笑えない。それは、あえて言うが、舞台の皆までもがオランピアのようだったからだ。

つまり、生きた芝居というより類型のなぞり(粟國淳演出)。第一幕からしてそう。「朝まで飲むぞ」と言いながら酔客(二期会合唱団)が行儀よく整列している。オッフェンバックには、美が滑稽とうらはらであり(オランピア)、美の獲得には喪失がつきものであり(ジュリエッタ)、命さえ落とす(アントニア)という毒の効いた認識があるはずだが。

そこへ救世主が現れた。第4幕。病身の歌手アントニアを演じた木下美穂子だ。繊細なビブラートを駆使、最大音量もこちらの耳にすっと沁みる。これに「名声か所帯じみた幸福か」と迫る小森輝彦(ミラクル博士)も声が自在になり、アントニアよ死んでもいい、もっと歌えと思うのだった。ミシェル・ブラッソン指揮の東京フィルも、がぜん精彩を放ち始めた。度重なる転調の意味深いこと!

配役の異なる2日目は、そんな奇跡がなかったものの、とぼけぶりの効いた大沼徹のコッペリウス、声が前に出る樋口達哉のホフマン、フランス語が美しい田中健晴のフランツなど印象的。風通しは、この日のほうに分があっただろう。

(音楽評論家 舩木篤也)

7月31日、8月1日、初台・新国立劇場

(読売新聞・夕刊、クラッシック・舞踏 2013年8月6日より; 元記事リンク切れ)